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安易な雇用の匂わせは危険!(高知県公立大学事件)

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コロナ禍の影響もあるのか、雇い止めに関する判例が多く聞こえてきます。

今回ご紹介する「高知県公立大学事件」も5年を超えたところから申し出ることができる、いわゆる”無期雇用”とプロジェクトの期間が問題になった事例です。

 

”無期転換”って、非正規雇用でもずっとその会社にいられることだよね?

うん。大学業界では雇用の不安定な非常勤講師を中心に、その申し出が増えているんだよ。

 

 

事件概要

高知県立大学はとある7年間のプロジェクトをスタートし、それに合わせてエンジニアであるA氏を有期雇用で雇い入れました。

A氏を誘ったのは、A氏と同じ高校の先輩であるX氏であり、彼は高知県の職員から高知県立大学に出向(後に専任職員へ)していた人物です。文科省の補助金プログラムにも申請しており7年間は雇用が確実であること3年を目処に専任登用の試験を受けられることなどを交えて勧誘をしていたため、A氏は次第に転職を前向きに考えるようになったとのこと。

そして無事に大学に勤めることとなったAさんは持ち前のIT技術を活かし、大学のプロジェクトに邁進していくことに。順調に仕事を進めてきたAさんでしたが、2度目の契約更新を最後に契約は更新してもらえず、それを不服としてA地位確認訴訟に至ったというものです。

 

急な展開だけど、何があったの?!

今回の事例では、判決に至るまでの過程も重要なんだ。次の項で説明するね。

 

突然の雇い止め

 

判決

令和2年3月に下された判決は「雇い止めは無効」

そもそも日本の労働市場において、解雇や雇い止めというものは非常に制限かかけられており、事業主側が安易にその権利を濫用できないようになっています。

 

解雇も雇い止めも「客観的合理性」と「社会的相当性」が必要とされているんだ。

 

つまり今回の判決においても重要視されたことは、A氏の雇用契約を更新しなかったことに、客観的に納得できるような事情があったか、そしてその判断は社会通念に照らして相当か否か、ということです。

「雇い止めは無効」と判断された理由としては、主に以下のものが挙げられます。

 

・文科省の補助金プログラムから思うような資金獲得ができなかったものの、大学経営事態に特段問題があった訳ではない。

・他の同じ立場にいた有期雇用の職員は準職員試験を受け、合格している。

・無期転換ルールの施行を視野に入れた雇い止めである。

・その他X氏による熱心な勧誘活動の内容など。

 

この辺りが争点となりました。

大学側の主張はことごとく退けられたばかりでなく、A氏が「有期雇用として大学の発展に寄与し、その後は専任待遇へ」の期待を持つに足るX氏とのやりとりなどが証拠となっています。

いずれも客観的に(雇い止めをするには)合理性を欠いており、社会通念に照らしても(無期転換ルールの施行を視野に入れた上での判断やX氏の勧誘などは)相当とは言えない、ということです。

 

無期転換ルール(労働契約法18条)とは、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは労働者の申込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換するルールのことを指します。

 

判決の意義

日本の労働市場はとにかく立場の弱い労働者を守ることができるようにできているので、今回の判例は妥当な内容と言えます。

 

むしろ同じ人事屋として、よくこんな強気なことできるなと思うよ。

 

これは教員の話になりますが、無期転換ルールが施行された時には戦々恐々としました。

それでも現実として日本の大学は多くの非常勤講師の先生方によって支えられているのは紛れもない事実ではありますので、 法を逸脱してまで権利を潰してしまってはいけません。

 

また、今回の事例でもう一つの大切な点に触れておくと、「7年間の期限付きプロジェクト」と「5年を超えた場合の無期転換ルール」との関係も重要なポイントです。

いくら期限付きのプロジェクトや企画だと言っても、それと雇用契約の期間はなんら関連性を持たないということです。

無期転換ルールをすり抜けるためには、クーリングと呼ばれる期間(例えば5年働いたら、半年空けるなど)を設けるのですが、今回のケースでは継続して雇用契約を結んでいます。これはどう考えても無理ですね。。

 

無期転換を妨げる手法に「クーリング期間」がよく使われる

 

今後の大学人事に与える影響

 

非正規雇用で大学を支えて下さっている方々には耳の痛い話かもしれません。

 

しかしあえて人事屋の目線から言うならば、

”いかにリスクヘッジをしながら非正規雇用を活用するか”ということになります。

 

前述のとおり既に日本の大学は非常勤講師の先生方をはじめ、非正規雇用なくして立ち行かなくなっております。世間的には「同一労働同一賃金」をうたってはおりますが、雇用市場は正規・非正規の格差は広がるばかりと言えるでしょう。

なぜならば、同一労働だからといって非正規雇用の待遇を上げようとはならず、むしろ正規雇用との棲み分けをきっちり行うことで、差別化を測っていくからです。

そうすると、我々人事屋に求められることは、より部分的に効率よく非正規雇用を活用し、かつ無期転換等のリスクを低く抑えていくことになるのです。